R.I.P

 故人の選択が自死であったなら、その真相は本人しかわからない。
 それは貴方も私も変わらない。
 
 私はプロレス関係者でもなければ、彼女の試合を欠かさず見ていたほどのファンでもない。
 それでも彼女の死を知った時、大きな喪失感とその反響に違和感を感じた。

 プロレスにもテラスハウスという番組にも興味がない人ほど彼女の死を話題として消費している。

 ただ、彼女の死に思いを馳せるのならばプロレスラーとしての彼女を知っていてほしい。

 その原点である木村響子というプロレスラーを知ってほしい。

 木村響子は世間が、いやせめてプロレスファンだけでももう少し女子プロレスに興味と敬意を持っていた時代なら歴史に残る名選手と呼ばれたかもしれない。そう言えるだけの実績を残している。
 「プロレス暗黒期」と言われた時代により厳しい状況にあった女子選手でありながらとてつもない活躍をしている。おそらく当時の女子プロレスラーとしてできることはすべて成し遂げた稀有な存在と言っても差し支えないだろう。

 女子プロレスラーとしてデビューした後、大日本プロレスの過酷なデスマッチに身を投じ(大仁田でさえ危険だと言った)蛍光灯を使った試合にも挑戦している。ローカル団体でマスクウーマンに姿をかえ長期参戦。さらには総合格闘技に挑戦し実業団柔道優勝者を含む相手に勝利(総合戦績2勝1敗1分け)。
 DDTアイアンマン、JWP無差別級の他複数のチャンピオンベルトを巻いた。

 そして娘のデビューを機に「アウトデラックス」出演を果たす。

 そして木村花選手は武藤敬司の元でプロレスを学び、22歳にして偉大なる母が成し遂げれなかったことを手に入れる。

 一つは満員の東京ドームで試合をするという事。
 全日本女子プロレス時代に一度だけ行われた東京ドーム興行は満員には程遠い。(稀代の山師である松永兄弟の主催者発表を鵜呑みにする必要はないw)国内の女子レスラーでこの経験があるのは「週刊プロレス主催 夢の懸け橋」に出場した選手に限られるだろう。(北朝鮮で19万人の前で試合した)北斗晶ですら選手としては経験していない。その空間に彼女は旧来の女子プロレスとは異なる淡い色合いを派手に使ったコスチュームで登場した。新しい時代の光がそこに見えた。

 

 「そんなに大事なコスチュームなのに」と彼女を批判する人は考えてほしい。記念のコスチュームを額に入れて飾っているプロレスラーと、それを日常的に使用し日常的に洗濯し小さな会場に来てくれるファンと共有するプロレスラーのどちらが魅力的か。どちらが美しいエンターティナーであるかを。

 

 もう一つは地上波テレビの人気番組にレギュラー出演すること。
 
 フジテレビを罵倒することに彼女の自死を利用する人や、その事に絡めてテレビ出演した彼女を批判する人は知ってほしい。
 親子の幸せな姿を放送した「アウトデラックス」も、所属団体代表のロッシー小川氏がかつて在籍した全日本女子プロレス中継もフジテレビであったことを。

 

 最後に、私も彼女の死を利用しようと思う。
 それはネットであっても他者を罵倒しないように自らを戒めるために。